全国10地域で開催いたしました、「専門テーマでの講演」&「住教育セミナー」ですが、おかげ様で好評のうちに終了いたしました。
この度、全国縦断住教育セミナーの開催報告書が出来上がりましたので、お知らせいたします。
開催報告(抜粋)
北海道会場 講師:ミサワホーム綜合研究所 富田 晃夫氏
五感能力を伸ばす「ホームコモンズ」という考え方をご存知でしょうか?
「コモンズ」とは、みんなが集まる場所や集会所のことです。大学や図書館では、その考えを採用し、共同作業をしたり、お互いに刺激し合いながらそれぞれの勉強に励んだりすることもできる「ラーニングコモンズ」という空間が増えています。この空間を住まいの中に採り入れたデザインが「ホームコモンズ設計」です。
これは「子どもの成長に合わせて学びの空間も段階的に変化させる」ことです。子どもの思考力への刺激、親子の触れ合いや対話を重視して住まいのあり方を変化させていきます。これからの子育て世代の家づくりをリードする住まいの考え方になると思います。
私は「ステージごとに何が起こり必要になり注意するのか想像し提案」することが大切だと考えています。リビングやダイニングを上手に活用し、「乳児期」「幼児期」「児童期」「青少年期」と4つの成長ステージに合わせて、「学び空間」をデザインしていきます。
それぞれの興味・関心に家族それぞれの定位置をつくり、仕事や学び、創造などを通じて理解を深め、それぞれの成長やコミュニケーションを高めます。
それと合わせて家族全員で「学びや趣味」を楽しむ空間もデザインします。子どもはふれあいながら思考力を高めます。家族それぞれの興味がわかる「ヒストリカル・ライブラリー」、それぞれ自分の居場所となる「ファミリー・リザーブシート」、ちょっと休憩できる「ワーク・ラウンジ」社会が求めているものは急激なスピードで変わっています。家庭内でもその住まい方は変わっていくものだと思います。住まい手自身が学ぶこと、住教育の中で充実した住空間である「ホームコモンズ」という考え方を考えて頂きたいと思います。
宮城会場 講師:ジブンハウス 内堀 孝史氏
今は全国各地を講演・セミナーで飛び回っていますが、二〇一一年の三・一一、あの震災後すぐに宮城県石巻市に拠点をつくりました。そこでの活動は住宅建設も大事でしたが、「もっと大切なこと」を残してきたつもりです。
私は復興には「家族の結びつきが重要」そして「地域の結びつきが重要」だと考えています。「住教育」とは家づくりを学ぶだけではなく家族・地域の結びつきを考えることだと考えています。そんな中で「住宅づくり」には近年犯罪が多くなってきた中で「防犯」という考え方が大事になってきています。
個々の住宅で守る意識も大切ですが地域で守る意識が必要です。個々の住宅で考えた場合には、庭も家の周りも美しくすることが、防犯上も安全であり、結果家族の幸せにつながります。地域全体も美しくなり、安全で安心な地域となります。
住宅を「物件」としてではなく「住環境」として考えてみてください。私が震災後にあの悲惨な状況を目の当たりにして、不幸にも被災された方に残ったものは「思い出」だったんだと思います。住宅とは「家族の思い出」を残すところだと思います。健康こそが幸せ、健康的に快適に過ごせる住宅の「暮らし方」を学ぶこと。
住教育は「家」だけのことでなく「住まい方・住環境」を幅広く学ぶことです。家づくりに「少し無理して外にお金を掛ける」ことをしてみてください。きっと地域がよくなり、家庭もよくなります。
最後に防犯のコツをひとつ。お子さんが家に戻って「誰もいなかった」時にこそ「ただいま!」と大きな声で家に入ることをお子さんに癖付けてください。そんなちょっとしたことで「安全と安心」は手に入れることが可能です
福岡会場 講師:一般社団法人家事塾主宰 辰巳 渚氏
多くの子世代、とくに女性が悩むのは実家の片付けです。片付けのニーズは親子関係・家族関係のニーズによって大きく違います。同居が少ない時代です。超高齢社会の時代に、片付けは大変になってきています。特に大変なのは放置されている家、すなわち空き家の片付けです。
近年、子世代にとって「実家」というのは負の遺産になるケースが多いのです。これは「大家族」から「核家族」「個人」へ住まい方が変わったことが原因です。晩婚化により「家」の価値は変わってきました。「家」=「家族」ではなくなってきています。結婚をして子どもを産み、妻として夫と生きる女性たちは、子どもの面倒を見て、介護もしなければならない「ダブルケア」すなわち「育児と介護を同時にする」ケースが多くなり女性に対する負担は重くなっています。
「家事」というと、炊事、洗濯、掃除などを思い浮かべます。それは間違ってはいないのですが「家事=家の事・暮らすこと」です。暮らしのルールやマナーというのは「親から子へ」が基本ですが、隣近所、その土地、その地域、社会全体で共有してきたものでもあります。それが、戦後三世代目になって破綻し始めていて、家庭をもっても家事の仕方がわからないとか、理想とする生活と自分の生活とがうまくつなげられない不安を抱える人がとても増えています。
最近は家事すなわち「家のこと・住まうこと・家族と暮らすこと」を学ぶ機会は極端に少なくなってきました。
「住教育」はそれぞれの家族の知恵や経験ですから集積出来にくい時代なのです。自分らしい生き方を実現していくために、また日常の生活を健康で幸福に営むために、知恵や技術をともに学び合い深め合うことが必要だと思います。それを次世代に伝えていくことが「住教育」で大切なことだと考えています。
愛知会場 講師:住宅保証機構株式会社 芝 謙一氏
私は仕事柄、年間千五百件以上の築十年以内住宅事故事例を見ています。住宅事故事例は思ったより多いのです。だからこそ「消費者は勉強してから家づくりをする」ことが大事だと考えています。それらの住宅事故事例から検証してお話ししたいと思います。
事故事例の第一位は圧倒的に「雨漏り」です。雨漏りの原因は「屋根・壁の施工ミス」によることが多く、軒の出が少ない住宅は事故の危険性が高くなります。軒の出が大きい家は「雨漏りのリスクが少なくなる」と考えて正しいと思います。また、サッシ周りの「雨漏り」事故は手抜き工事から起こります。
基本的な施工手順を守れば事故は起こり難いです。すなわち「事業者さんの施工管理能力」を見る必要があります。例えば、防水シートと防水テープには相性があり施工不良が起こる可能性があるのです。これは消費者にはわかり難いことです。
住宅は高気密・高断熱化で雨漏りに気づき難い時代です。住宅は、事業者さんに任せっぱなしではいけません。自分の家は自分で守ることが大事です。ですから住まい手自身が学ぶ「住教育」を大切にして欲しいのです。
最近では「太陽光パネル」の事故が多くなりました。引渡し後の太陽光パネルの設置は事故率が高いのですが、それは瑕疵保険対象外となります。また、結露事故も、瑕疵保険対象になりません。高気密・高断熱仕様で一般的には結露は少なくなりましたが、住まい方によっては、結露し、それがクレームになる事例も少なからずあるようです。例えばストーブの上にヤカンは結露の原因になりますので、住まい方の教育は必要となります。
デザイン重視で大事なことを忘れてはいけません。掃除などをしないと家は劣化が激しくなります。事故を起こさない施工と万が一の場合の瑕疵保険をしっかり確認することで「長持ちする家づくり」をすることができます。
愛媛会場 講師:日本長期住宅メンテナンス有限責任事業組合 南山 和也氏
私は「シロアリの専門家」です。みなさんシロアリは「害虫」だと思いがちですが地球環境という視点で見れば、シロアリは「益虫」の部類に入ります。シロアリの多くは森林地帯に生息しており、枯れた木材や落ち葉などを食物とします。つまり「森の分解者」として大切な役割を果たしているのです。
ヤマトシロアリやイエシロアリは、家屋の部材である木材を食害し、時として大きな被害を及ぼします。こういったケースでは、害虫だと言えます。阪神淡路大地震で「シロアリ被害」があった家は九十パーセント以上倒壊しています。
シロアリは家を長期間維持するためには避けなくてはなりませんが、シロアリ被害は人の目にはふれないので、壁などを開けてみないとわからないケースがほとんどです。シロアリ被害は気が付きにくいのです。羽蟻が飛び出して初めて気づくケースが多いのです。今まで「寒いところにシロアリはいなかった」のですが、「外断熱等」で家があたたかくなったので、その被害は寒冷地でも多くなりつつあります。
シロアリは意外にも木材だけでなく「発泡スチロール系の断熱素材」もよくかじるのです。シロアリ被害があると「薬剤散布」をします。その薬剤は人体にも影響しますが、大事なのはその散布量です。例えば人に必要な塩でも、体重六十キログラムの人が一キログラムを食べると死に至ります。全ては量の問題ですからプロに任せることが重要です。また、シロアリ被害を未然に防ぐ「防除の考え方」が大事です。プロによる点検をしっかりすることが大事だと思います。
建物を長く使うには1、良質な住宅をつくる 2、長期修繕計画をたてる 3、定期的な点検・診断を行う 4、適切な維持管理を行う 5、全ての記録を残すといったことが大切です。住宅の価値を落とさないためには「家の点検・修繕等の記録をしっかり残すこと」が大切です。
広島会場 講師:一般社団法人静岡県古民家再生協会 三ツ井 仁氏
みなさんにとって「古民家から考えるイメージ」はなんでしょうか?「夏涼しい」「冬寒い」「自然素材」「壁が少ない」「再生可能」「暗い」など様々だと思います。
「古民家鑑定士」という資格でみると古民家の基準は「築五十年以上の木造住宅」ですが、多くの方のイメージは、国の建築のルールができる前の伝統工法の木造住宅なんだと思います。「コンクリートの基礎でなく石の上に建って」いたり、「茅葺などの草葺き屋根」だったり、「土間や縁側がある」住宅なんだと思います。しかし、そんな日本の住文化である「古民家」はどんどん壊されています。もったいないですよね。
みなさんは何年持つ住宅を「建てたり」「買ったり」したいですか?
「古民家」はそもそも百年程度は長持ちしています。メンテナンスすればまだ百年以上は住むことができます。今の住宅の寿命が三十年前後と言われますから古民家は「お金も掛からない」し「長持ち」です。しかし古民家を「直すより壊して新しくした方が安くできる」と言われるケースが多いようです。それは「大工さんの技術がない、大工さんがいない」ことを指してるケースが多いようです。
「古民家」はメンテナンスすれば暖かく便利に出来ます。その費用も「同等の新築より」は安く出来ると思います。古民家を残していくためには、大工さんの技術が大切で、私たちは日本の住文化を残し、未来の子ども達の為にも「大工さんを育てること」をしなければなりません。
「古民家」は外国人の方から見たときに「憧れの日本文化住宅」なんだそうです。そして外国では「古い建物の方が価値がある」ケースが多いんだそうです。「古いものを長く大切に使う」には「メンテナンス」が重要です。地域の大工さんと仲良くして、しっかりメンテナンスしていけば「古民家の方がお得」なんだと思います。
地域の古民家を探して見てください。みなさんの周りにもいっぱい「古民家」という宝物があるはずです。
大阪会場 講師:一般社団法人全国優良工務店支援協会 大沼 勝志氏
新築の価格は多くの場合「坪単価」で計算されます。しかし、リフォームはその限りではありません。最近では「水廻り三点セットで○○円」というものもありますが、大規模改修は価格がわかりにくいのが現状です。ですから「大規模改修するなら新築した方がわかりやすい」と新築される場合が多く見受けられます。
しかし、例えば「固定資産税」は新築とリフォームでは大きく違います。これは毎年のことですから大きく差が出ます。また建て替えた場合には「解体費」「引っ越し費用」など目に見えにくい無駄な経費も多く出るので「リフォームの方が断然お得」です。
家族構成は変わっていくものですから、変化しやすい家づくりには木造住宅が断然有利です。私は「いい木造住宅」ならリフォームは容易で、その後も基本的に長持ちするので、「住宅の資産価値を高めるリフォーム」をするべきだと考えています。「資産価値を高めるリフォーム」のポイントですが、まずリフォームは信頼できる業者が大事です。やはり「地域の大工・工務店さん」が安心できます。
そして「構造をしっかり直すこと」です。よく外壁の上に外壁を貼るケースが見られますが、これでは、下地は大丈夫なのかと心配になります。リフォームには耐震補強・性能向上、間取り変更、老朽化対策などがありますが、「デザインより中身が大事」です。費用をかけるところ、かけないところのバランスが大事ですので、住まい手自身が、あとで後悔しないように家づくりを勉強しないと取り返しがつかないことになります。自分自身で「現場も確認」出来るようにならなくてはなりません。
建築は様々な業者さんが出入りしますから、図面だけでは確認できないこともあると思います。計画的・定期的に大きな改修工事をおこなう方が、家の「資産価値」を高く保ったまま、長期間住まえてお得です。「住教育」を勉強して楽しみながら家づくりをしてください。
沖縄会場 講師:NPO 法人日本健康住宅協会 和田 伸之氏
人は「バランスのいい食環境と住環境で寿命が伸びる」と言われています。住まいと健康は結びついているのです。ですから「住教育」は大事です。最近は気密性と断熱性を高めた住宅が当たり前になっています。ですから健康阻害となる「四つの住環境」と「三つの防除対策」を学ばなくてはなりません。
「四つの住環境」とは「空気環境」「温熱環境」「音振動環境」「光視環境」で「三つの防除環境」とは「防露環境」「防カビ環境」「防虫環境」です。各地域に「健康住宅アドバイザー」がいますので住まい手自身が自分自身を守る為にしっかり学んで頂きたいと思います。例えば、最近よく聞かれる「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」。
基本的に化学物質は「発がん性の有る無し」に分けられます。その「有る無し」は消費者自身で確かめるべきです。また「ヒートショック」。急激な温度変化、急激な湿度変化は健康被害を起こします。部屋間の温度差が十度あると血管トラブルを起こす可能性があります。それをコントロールできる家づくりをしなくてはなりません。
日本は「湿度が高く」カビの多い国です。日本人が韓国に行った時に飛行機を降りると「キムチの匂いがする」ように「国の匂い」があります。外国人の方から見ると日本は「カビの匂い」なんだそうです。お正月のお餅は「カビが生えても大丈夫」そんな常識は嘘です。カビは「空気・温度・水・栄養」でコントロールできます。エアコンはカビ繁殖の環境にいいのです。市販のカビ取り剤は化学物質ですから、体に良くありません。五十度以上のお湯でカビは死にますし、エタノール系のアルコールもカビに効くということを知っておけば随分違います。
それぞれの家で住環境と上手に付き合うことが大事だと思います。そして皆さん自身も「健康住宅アドバイザー」に是非チャレンジ頂き、学んで頂きたいと思います。
石川会場 講師:ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 矢部 智仁氏
家には「手を入れる」という観点を忘れてはなりません。その理由は住宅・不動産が「家族の資産である」からです。家族の資産形成の為に、まず「住宅・不動産の資産価値を意識すること」が大事であることから伝えたい、私が「住教育」を進める理由でもあります。
日本でもこれから経済活動も社会のあり方も「ストック型社会」に向かっていきます。そのような社会では人の寿命よりも長い寿命を持つ住宅というストックを「引き継ぐ意識を強く持つ」教育を推進していかなくてはなりません。だからこそ「家を家族の資産として捉える」ことが大事なのです。よく「相続で兄弟がもめる」ケースがあります。それは「住宅」が「評価しにくい」「分けにくい」「換金しにくい」からです。これは勉強できない、あるいは良いアドバイザーに恵まれないために起こる悲劇です。
資産の勉強というと「金融資産」については徐々に行われていますが、最大の資産である住宅・不動産についてこそもっと教育が必要です。「敷地に価値なし、エリアに価値あり」と言われます。個別の不動産の価値はそのエリア全体の価値によって変わるという考え方です。
「地方創生」の時代と言われる昨今、消費者の志向、地域や個人の多様な価値観を汲み取り、地域のコト、すなわち生活・暮らしに関わっていくことが住宅・不動産ビジネスに求められています。これから「建築業と不動産は一体」となり「地域の残された資源を有効に活用する」ことで「地方活性化」の流れが生まれると思います。欧米の都市デザインにおいて、新しい取り組みを始める際に、Light(軽妙に) 、Quick(素早く)Cheap(手軽に)という考え方があるそうです。
地域のことを考える際に、お金の工面が大変だったり時代の変化が早く仕掛けたことが合わなったりする時代です。そんな時代に「我が家のこと」を考えるなら、例えばまず「壁を綺麗に塗ってみる」といったことからスタートしてみてはどうでしょうか? 小さなことですが、築き上げてきた資産を有効に使い、「住宅を資産として残す」時代への第一歩かもしれません。
東京会場 講師:オフィスアイゼン 相続コーディネーター 髙田 美介氏
私が最近多く相談を受けるのが「親が認知症で相続に困っている」という案件です。最近多くなっている「認知症」。全国で認知症を患う人の数が二〇二五年には七百万人を超えるとされ、六十五歳以上の高齢者のうち、五人に一人が認知症に罹患する計算となります。
「認知症」になると資産、預金・不動産は動かせなくなります。そこで注目されているのが「家族信託」です。
資産移転せずに、資産継承を可能にするのが「家族信託」です。財産管理の一手法です。資産を持つ方が、特定の目的、例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」などに従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。いわば、「家族の家族による家族のための財産管理」と言えます。
家族・親族に管理を託すので、高額な報酬は発生しません。誰にでも気軽に利用できる仕組みです。後見制度に代わる柔軟な財産管理方法で元気なうちから資産の管理・処分を託すことで、元気なうちは、本人の指示に基づく財産管理を、本人が判断能力を喪失した後は、本人の意向に沿った財産管理をスムーズに実行できます。加えて、積極的な資産運用・組替えも、受託者たる家族の責任と判断で可能となります。法定相続の概念にとらわれない〝想い〟に即した資産承継を実現できます。
共有不動産は共有者全員が協力しないと処分できませんが、不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できます。デメリットとしては税務的なメリットが特段生じないことです。選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか?家、資産で後々まで争うことは誰しもやりたくありません。
元気なうちから何かアクションを起こされませんか? なにもしませんか? 人生の総決算としての終活を少し考えて勉強することも「住教育」だと思います。
東京会場 講師:住育研究家 竹島 靖氏
家族が百あれば、百通りの「いい家」が存在します。賃貸か持ち家か、集合住宅か一戸建てか。様々な住まいの形態や家族ごとにふさわしい広さや間取り、設備があります。どんな住まいでどんな生活をしたいのか?それには数多くの選択肢があり、絶対的な正解はありません。
これをお話しするとみなさん驚かれるのですが、私は引っ越しを十九回しています。様々な苦労をしました。住んでから「後悔すること」や「思ってたことと違うこと」。そこで大事なのは「生活者が賢くなること、勉強すること」だと思い知りました。
業界は変わらないです。しかし生活者を変えることはできる。そう考えて二〇〇七年に『住育のすすめ』という本を書きました。この本は多くの反響をいただきました。「食育」でもそうだったと思いますが、業界のタブーを書いたのでした。総務省のデータでは家は平均三十年しかもたないが、三十五年のローンを組むのが現実です。家は手放してもローンはついてくる、おかしいと思いませんか?
その上、空き家は増えて八二〇万棟。極端な表現かもしれませんが「ロクな家はない、マシな家はある」と私は思っています。その家とはたとえば「家歴書のある家」です。車に「車検書」があって家に「家歴書」がないのはおかしいと思います。その家が「安心・安全」かは「家歴書」がないとわかるはずありません。
来年からやっと「インスペクション」の義務化が始まるようです。「インスペクション」の義務化にプラスして、優良既存住宅認定制度が始まるようです。銀行も、いい家は三十年経過しても担保価値として評価するようです。四兆円ほどの既存住宅市場の規模を二〇二五年までに倍に増やすそうです。
すでにマンションでは中古マンション契約戸数が、新築マンション新規販売戸数を上回っている時代。生活者が「住教育」を学ぶことで選択肢が広がり、幸せな生活を手に入れることができる時代が近づいています。誰のためでもなく、家族と自分自身のために「住教育」を学んでいただきたいと思います。
東京会場 講師:群馬県新民家推進協会 金井 克明氏
空き家が八百万棟あるそうです。凄い数です。住宅ストック数が世帯数を大きく上回り、昨年も百万棟程度新築されましたから、このままでは益々空き家が増えることになります。
増える空き家の八割は「戸建て住宅」です。既存住宅を活性化させなくてはなりませんが、その問題点はどこにあるのだと思いますか?日本の新築市場に比較して既存住宅市場は十三パーセント程度、イギリスはなんと八十八パーセントの市場が既存住宅流通です。これは住宅に対する意識の違いです。・日本は耐久消費財と考えスクラップアンドビルド推奨・イギリスは資産、ヴィンテージハウスと評価するこれ以上「短命な住宅を作り続ける」のはよくないと、二〇〇七年に国は「200年住宅」を掲げ、今は「長期優良住宅」として「長持ちする家」を推奨しています。
昨年「住生活基本計画」を見直して、「インスペクション」をしっかりすることを義務付けようとしています。家をしっかりと評価する制度です。このインスペクションは「専門家」の技術向上が重要です。私は不動産を取り扱っていますが、「インスペクションは不動産業者以外の専門家が行うことこそが正しい価値を判定する」と思います。「売る人が評価する」のではなく「第三者の眼でしっかり評価する」ことこそが安心の評価に繋がります。
これからインスペクションが当たり前の時代になり、銀行による家の評価制度の見直しや、既存住宅への税制の改正、補助金・助成金の支援強化などで「既存住宅市場の活性化」が進むと私は思います。いい既存住宅を「資産として残し活かす時代」になると思います。
富山会場 講師:富山県木の住まい支援協会 笹川 征一氏
将来大工になりたい子どもが集まる事業「大工アカデミー」が今回で五回目となりました。私は大工職人が激減していることを危惧しています。何故「大工さんになりたい若手が少ないのか?」それは「私たち業界の受け入れ態勢」に問題があると思います。
職人さんは『3K』=きつい・きたない・危険といわれてきました。それを『新3K』= かっこいい・稼げる・家族に誇れるに変えていかなければなりません。
私は専門学校を卒業後、二十歳で大工の修行に入りました。五年二ヶ月修行して今の大工技術を習得しました。修行は厳しかったですが楽しかったです。何より「夢」がありました。私の家は父が大工をしていましたから、その背中を見て育ちました。子どもの頃は「大工は嫌だなぁ?」と思っていましたが周りから「おまえのお父さんの仕事かっこええなぁ」とよく言われたんです。人の住む一生の家を作る仕事、百年住める家を作りたいと思いました。それは大きな責任ある仕事です。
「寿命三十年の家」は私は作りたくありません。「百年は住むことのできる長持ちする家」を造り感謝されたいですから「住まい手にも共に家について勉強してほしい」と「大工アカデミー」を開催して、「木の住まい教室」を開催しています。
親と子で木に触れて、木を活かす技術を学んで頂くことで「家づくりの学びの入り口に入って頂く」。家は「親から子にそして孫に引き継ぐ」ことです。快適な家はもちろん大事です。そして資産として住宅の視点も大事ですが「家族の幸せを感じる空間」が一番大事なことだと私は考えています。